2013年01月15日
都市伝説:ノックの音がする
A子と彼氏のB男、友人で同じくカップルのC子とD男、この四人は大学の卒業旅行に登山を計画していた。
四人は全員が同じサークルに所属していて、入学当初から親しかった。
初日は車で山小屋にまで行き、そこで一泊してから登山をする、そういう計画だった。
全員揃って行きたかったのだが、彼氏のB男は就職活動の面接があり、一人遅れて、バイクで山小屋に行くことになった。
A子はD男の運転する車の後部座席に座り、前の席にはC子とD男が座って、順調に山道を登っていった。
山の中は、先日の雨の影響か、ひやりとしており、少し靄がかっていた。
最初の内は、二人と話をして盛り上がっていたA子だったが、ウトウトしているうちに眠ってしまった。
目を覚ますと、もう山小屋の近くだった。
随分眠ってたみたい、とA子は思った。
気だるい身体を起こして、車を出る。
ひんやりとした空気を吸い、靄がかった山を見渡すと、C子とD男が真剣な顔をして、小さな声で話している。
「どうしたの?」
はっと振り返ると、二人は黙って目を合わせた。
異常な雰囲気の沈黙に、山小屋の鍵でも忘れてしまったのだろうかと、A子はもう一度二人に問いかけた。
「ねえ、何かあった?」
二人は互いを見合っていたが、やがて頷き合った。
「A子、落ち着いて聞いてね」
「実はな。さっき警察から、連絡があったんだ。バイクで途中まで来ていたB男が、山道から落ちて、死んだって」
「そんな……」
A子は絶句し、その場にへたり込んだ。
山小屋に入っても、A子は茫然自失で、ショックを受けたまま、ひとりひざをかかえてふさぎこんでいた。
その内に、夜になった。
突然、静かだった山小屋のドアが、乱暴にノックされた。
「おい! A子、俺だ! あけてくれ!」
B男の声だ! A子はすぐさま開けようとしたが、C子とD男はA子の手を掴み、ひきとめた。
「だめだ、A子、B男は死んでいるんだぞ! きっと幽霊だ! 君を連れて行こうとしているんだ! ドアを開けちゃだめだ!」
「そうよA子、私たちと一緒にいて!」
二人は、強い口調でA子を諭した。
しかし、ノックの音はさらに続いた。
「A子あけてくれ、たのむ! そこにいるんだろ? 開けてくれ、お願いだ!」
B男の必死の声が聞こえる。
B男を見たい、もう一度会いたい。
矢も盾もたまらず、一心にそう思ったA子は、二人の制止を振り払って、ドアを開けた。
彼の待っているそのドアを。
まっさきに飛び込んできたのは、白い天井だった。
それから、目を赤く腫らしたB男の顔が見えた。
「A子……本当によかった……」
B男はそういって、A子の手をとり、両手で握り締めた。
わけのわからないでいるA子に、B男は事情を説明し始めた。
事故にあったのは、A子とC子とD男の方で、崖から転落して、後部座席から投げ出されたA子は、一晩中生死の境をさまよっていたという。
「C子とD男は死んだ。即死だってさ」
震えるA子を抱きしめると、B男はぽつりといった。
「あいつらも、二人だけで逝くのはさびしかったんだろうな。お前にも、一緒にいてほしかったんだろう」
これが都市伝説、ノックの音がする、です。
とにかくこの話は出来が秀逸で、お話として完成度がMAXですね。
世にも奇妙な物語で放送されたり、多くの漫画媒体で読み切りが書かれたり、何せ元のお話の出来がいいので、人気が高い都市伝説です。
また、この世とあの世の狭間、幽霊の話というのも、日本人にとっては馴染みの深いものであったのかもしれません。
四人は全員が同じサークルに所属していて、入学当初から親しかった。
初日は車で山小屋にまで行き、そこで一泊してから登山をする、そういう計画だった。
全員揃って行きたかったのだが、彼氏のB男は就職活動の面接があり、一人遅れて、バイクで山小屋に行くことになった。
A子はD男の運転する車の後部座席に座り、前の席にはC子とD男が座って、順調に山道を登っていった。
山の中は、先日の雨の影響か、ひやりとしており、少し靄がかっていた。
最初の内は、二人と話をして盛り上がっていたA子だったが、ウトウトしているうちに眠ってしまった。
目を覚ますと、もう山小屋の近くだった。
随分眠ってたみたい、とA子は思った。
気だるい身体を起こして、車を出る。
ひんやりとした空気を吸い、靄がかった山を見渡すと、C子とD男が真剣な顔をして、小さな声で話している。
「どうしたの?」
はっと振り返ると、二人は黙って目を合わせた。
異常な雰囲気の沈黙に、山小屋の鍵でも忘れてしまったのだろうかと、A子はもう一度二人に問いかけた。
「ねえ、何かあった?」
二人は互いを見合っていたが、やがて頷き合った。
「A子、落ち着いて聞いてね」
「実はな。さっき警察から、連絡があったんだ。バイクで途中まで来ていたB男が、山道から落ちて、死んだって」
「そんな……」
A子は絶句し、その場にへたり込んだ。
山小屋に入っても、A子は茫然自失で、ショックを受けたまま、ひとりひざをかかえてふさぎこんでいた。
その内に、夜になった。
突然、静かだった山小屋のドアが、乱暴にノックされた。
「おい! A子、俺だ! あけてくれ!」
B男の声だ! A子はすぐさま開けようとしたが、C子とD男はA子の手を掴み、ひきとめた。
「だめだ、A子、B男は死んでいるんだぞ! きっと幽霊だ! 君を連れて行こうとしているんだ! ドアを開けちゃだめだ!」
「そうよA子、私たちと一緒にいて!」
二人は、強い口調でA子を諭した。
しかし、ノックの音はさらに続いた。
「A子あけてくれ、たのむ! そこにいるんだろ? 開けてくれ、お願いだ!」
B男の必死の声が聞こえる。
B男を見たい、もう一度会いたい。
矢も盾もたまらず、一心にそう思ったA子は、二人の制止を振り払って、ドアを開けた。
彼の待っているそのドアを。
まっさきに飛び込んできたのは、白い天井だった。
それから、目を赤く腫らしたB男の顔が見えた。
「A子……本当によかった……」
B男はそういって、A子の手をとり、両手で握り締めた。
わけのわからないでいるA子に、B男は事情を説明し始めた。
事故にあったのは、A子とC子とD男の方で、崖から転落して、後部座席から投げ出されたA子は、一晩中生死の境をさまよっていたという。
「C子とD男は死んだ。即死だってさ」
震えるA子を抱きしめると、B男はぽつりといった。
「あいつらも、二人だけで逝くのはさびしかったんだろうな。お前にも、一緒にいてほしかったんだろう」
これが都市伝説、ノックの音がする、です。
とにかくこの話は出来が秀逸で、お話として完成度がMAXですね。
世にも奇妙な物語で放送されたり、多くの漫画媒体で読み切りが書かれたり、何せ元のお話の出来がいいので、人気が高い都市伝説です。
また、この世とあの世の狭間、幽霊の話というのも、日本人にとっては馴染みの深いものであったのかもしれません。
2012年05月16日
都市伝説:赤いマフラー
ある小学校に、いつも赤いマフラーを着けている女の子が転校してきた。
女の子も男の子も、あまり愛想のない赤いマフラーの女の子に、最初こそ興味をもったものの、次第に遠巻きにするようになった。
疑問に思ったクラスの男の子の一人が、「なんでいつもマフラーを着けてるの?」
と聞いた。
それまで無愛想だった女の子は男の子の方を向いて、
「中学生になったら、教えてあげる」
と答えた。
男の子と女の子は同じ中学になった。
しばらく経ったある日、「中学生にもなったし、なんでマフラーを着けてるのか、教えてくれよ」
と尋ねた。
女の子は「私と同じ高校にいったら教えてあげる」と答えるだけだった。
高校でも、再び二人は同じ学校になった。
「何で赤いマフラーを着けているのか、そろそろ教えてくれよ」
男の子の問いかけに、
「私と同じ大学にいったら教えてあげる」
と微笑むだけだった。
二人は同じ大学の同じ学科に進んだ。
その頃には、二人は恋人同士になっていた。
それから同じ会社に就職し、結婚もした。
結婚してしばらく経ったある日のことだ。
男は妻となった赤いマフラーの女に、
「ところでさ、おまえって、なんでいつもマフラーしてるんだ?」
と聞いた。
「そうね。わかった、そろそろ教えてあげる」
そういうと、彼女は今まで決して外さなかった赤いマフラーを首から外した。
ごとっごろん
彼女の首が、床に落ちて転げた。
彼女の首は、昔から赤いマフラーで繋がっていたのだ。
その家では、赤いマフラーをした女性と青いマフラーを着けた男性が、仲むつまじく暮らしているという。
最近では、紫のマフラーをつけた子どもが生まれたようだ。
これが都市伝説、赤いマフラーです。
一番最後は本来存在しないのですが、ごく最近に広まっているこの都市伝説の余談です。
この女の正体は飛頭蛮だったという説もあります.
そうしたさまざまな解釈をあてはめていくのは、この都市伝説の楽しみ方のひとつでしょう。
よくわからないけどとにかく怖い、しかもちょっと切ない都市伝説の典型だと思います。
2012年05月07日
都市伝説:完全防備のフルフェイス
仲間同士でのツーリングの途中、一人の男がハンドル操作をあやまった。
曲がりきれず、走る勢いそのままに転倒して、頭からガードレールに激突した。
ものすごい勢いで激突したので、仲間は大慌てで男の下へと駆け寄った。
「いてえ。ま、大丈夫大丈夫」
男はおどけたような仕草でムクリと起き上がった。
そして、陽気に仲間に手を振った。
仲間たちは、男の無事に安堵した。
これといって大きな怪我もないようだ。
「おいおい、しっかりしろよ。バイクの方は大丈夫かー?」などと、冗談交じりに、仲間は男をからかった。
「わりわり。ちょっとハンドル操作ミスっちった。ちょっと頭痛いくらい」
ずるっ
男がフルフェイスのヘルメットを脱いだ瞬間仲間たちから悲鳴が上がった。
ヘルメットをとった瞬間、男の頭部はぐにゃりと崩れ落ち、遅れて、男の身体もその場に崩れ落ちた。
さっきの事故の衝撃で、男の頭部はぐちゃぐちゃになっており、ヘルメットのおかげでなんとか形を保っていたのだった。
これが都市伝説、完全防備のフルフェイスです。
よく、兜は完璧だったけれど、衝撃で脳震盪を引き起こした、という話がありますが、もっとバイオレンスになったバージョンがこれでしょう。
人間の身体の形というのは、確かなようでいて、非常に不安定なものです。
激しい衝撃で弾け飛ぶ分子結合のように、衝撃を受ければ細胞同士も引きはがれてしまいます。
そういう意味では、まさしく、衝撃の伝わり方そのものが、衝撃的といえるでしょう。
2012年04月20日
都市伝説:友達だよな
男2人、女2人の大学生四人が飲み会をしていた。
4人とも高校時代から友達同士で、話題に事欠くことはなかった。
話している内にだんだん盛り上がってきて、肝試しに行こうという話になった。
車で来たため飲んでいなかった男が車を運転することになり、幽霊が出るというトンネルに向かった。
トンネルの周りには歴史を感じさせるように、ツタが無数に生えていた。
一同は車を降り、携帯電話で写真などを撮ってトンネルを散策した後、車へと戻った。
しかし、全員が乗り込んだというのに、なかなか車は発進しない。
運転席以外の三人は、「どうして出さないんだよー」「早く早く」など、からかい半分の文句の言い放題。
普段は反撃する運転席の彼だったが、なぜか黙ったまま、かすかに震えている。
そして、ゆっくり口を開いた。
「なあ……」
「え?」
「なあ……俺たちさ……友達だよな……」
急に変なことを言い出すものだと三人は思ったが、特に気に留めず、当たり前じゃん! 友達だよ友達! と答えた。
「じゃあさ、俺の足元を見てくれないか……?」
三人が彼の足元を覗き込むと、……の底から生えた二本の白い手が、彼の足をがっしりとつかんでいた。
三人は、悲鳴を上げながら車を飛び出して逃げた。友達を見捨てて。
落ち着きを出して取り戻した三人が車へ戻ってみると、彼の姿はなかった。
どこに行ったのか探してみようと車の周りを探していると、ひとりが悲鳴を上げた。
そこには全身ツタに絡まった彼の姿があった。
これが都市伝説「友達だよな」です。
この都市伝説の一番難しいところは、よりによって車を運転している彼だけが「酔っていない状態」にあるというところですね。
ツタはアルコールを嫌うのでしょうか? とまあ、もっともらしい疑問は置いておきまして。
この都市伝説も、有名であるとともに、類型の多い都市伝説でもあります。
ある程度、著名である都市伝説というのは、口伝えあるいは広まる過程で類型が増えていくものです。
ツタでないパターンも存在し、悪鬼のような形相で車の窓に顔を押し付けて倒れていた、というパターンもありますし、全員が閉じ込められるというパターンもあるようです。
また、逆に白い手だと思っていたのが単なるツタだった、というトンネル環境の恐ろしさの方に主眼を置いた都市伝説というのもあります。
特に幽霊ものの都市伝説は、微細な部分がいくらでも変わりやすいですね
4人とも高校時代から友達同士で、話題に事欠くことはなかった。
話している内にだんだん盛り上がってきて、肝試しに行こうという話になった。
車で来たため飲んでいなかった男が車を運転することになり、幽霊が出るというトンネルに向かった。
トンネルの周りには歴史を感じさせるように、ツタが無数に生えていた。
一同は車を降り、携帯電話で写真などを撮ってトンネルを散策した後、車へと戻った。
しかし、全員が乗り込んだというのに、なかなか車は発進しない。
運転席以外の三人は、「どうして出さないんだよー」「早く早く」など、からかい半分の文句の言い放題。
普段は反撃する運転席の彼だったが、なぜか黙ったまま、かすかに震えている。
そして、ゆっくり口を開いた。
「なあ……」
「え?」
「なあ……俺たちさ……友達だよな……」
急に変なことを言い出すものだと三人は思ったが、特に気に留めず、当たり前じゃん! 友達だよ友達! と答えた。
「じゃあさ、俺の足元を見てくれないか……?」
三人が彼の足元を覗き込むと、……の底から生えた二本の白い手が、彼の足をがっしりとつかんでいた。
三人は、悲鳴を上げながら車を飛び出して逃げた。友達を見捨てて。
落ち着きを出して取り戻した三人が車へ戻ってみると、彼の姿はなかった。
どこに行ったのか探してみようと車の周りを探していると、ひとりが悲鳴を上げた。
そこには全身ツタに絡まった彼の姿があった。
これが都市伝説「友達だよな」です。
この都市伝説の一番難しいところは、よりによって車を運転している彼だけが「酔っていない状態」にあるというところですね。
ツタはアルコールを嫌うのでしょうか? とまあ、もっともらしい疑問は置いておきまして。
この都市伝説も、有名であるとともに、類型の多い都市伝説でもあります。
ある程度、著名である都市伝説というのは、口伝えあるいは広まる過程で類型が増えていくものです。
ツタでないパターンも存在し、悪鬼のような形相で車の窓に顔を押し付けて倒れていた、というパターンもありますし、全員が閉じ込められるというパターンもあるようです。
また、逆に白い手だと思っていたのが単なるツタだった、というトンネル環境の恐ろしさの方に主眼を置いた都市伝説というのもあります。
特に幽霊ものの都市伝説は、微細な部分がいくらでも変わりやすいですね
2012年04月12日
都市伝説:青い石のネックレス
ある日、Bさんは大学生の彼氏にプレゼントされたという青白い石のネックレスをAさんに見せてくれた。
その石は何の石かは判らないが、きらきらと輝いていて、とてもきれいであるように、Aさんにも見えた。
Bさんはその後彼氏とは別れてしまった。
しかし、Bさんは自分の好きだった彼は私に贈ってくれたものだから、とネックレスを大切に身に着けていた。
何日かして、Bさんが学校に来なくなった。
心配したAさんがお見舞いに行くと、Bさんは「金属アレルギーになっちゃって」と語った。
首元を見ると、ネックレスを着けている周りは赤くかぶれていて、所々皮膚がはがれているところもある。
学校にはそのうち来れるようになるだろう、とAさんは思っていた。
しかし、Bさんはそれから、学校には来なくなってしまった。
一ヶ月が過ぎたが、相変わらずBさんは学校に来ていない。
入院したとの噂もあり、AさんもBさんのことを心配していた。
その内、、Bさんからうちに来てほしいというメールがあり、Aさんはお見舞いに向かった。
そこには変わり果てたBさんの姿があった。
がりがりに痩せ細った身体。ほとんど抜け落ちた髪。皮膚の色も、どす黒く変色してしまっている。
そのあまりの変わりように、Aさんは驚きを隠せない。
立ち竦むAさんに、Bさんは「これを受け取って」と震える手でネックレスを渡した。
それから一ヶ月ほどたったある日、Bさんからうちに来てほしいというメールがあり、Aさんはお見舞いに向かった。
そこには変わり果てたBさんの姿があった。
がりがりになった体。ほとんど抜け落ちた髪。皮膚もどす黒く変色している。
驚いているAさんにBさんは「これを受け取って」と震える手でネックレスを渡した。
「もう私はいらないから」
Bさんは、その三日後に亡くなった。
ネックレスを託されたAさんは、ネックレスに不吉なもの感じ、知り合いの経営している宝石店にその宝石を預けて鑑定してもらうことにした。
Aさんは、翌日の早朝、宝石店のおばさんからの電話で叩き起こされることになる。
「こんなもの、どこで手に入れたの! この青白い石は、ウランの結晶よ!」
そう、Bさんは被爆して死んでしまったのだ。
これが都市伝説、青い石のネックレスです。
話の過程を追う限りでは、ありがちな呪われたネックレスと思いきや、ある意味もっと恐ろしい代物だった、というのが都市伝説です。
実際に、ウラン採掘場の近くで捨てられていた青い石を拾って被爆したという事件も起こっています。
また、宝石の真贋の鑑定に、放射線を用いることがあるのも、この都市伝説が広まった一因でしょう。
(宝石によっては、放射線をあてることで、色を変化させるものもあるのです)
もっとも、そうした場合、放射線の残留量は厳密に計測されているので、問題はないのですが、放射線残留のパターンの都市伝説もあるようです。
2012年04月03日
都市伝説:ちょっと待て
三人の大学生が、肝試しのために近所でも有名な心霊スポット「○○病院」にやってきた。
○○病院は、潰れてから随分経つ廃院で、荒れ放題になっていて、誰も近寄らない病院だった。
そのうちの一人が、ビデオカメラをもって、証拠映像として探索の記録を録った。
そして、他の二人はテレビのレポーターのように、マイクを持つ振りをしながら、のりのりで廃屋へ入っていった。
「どうも、○○です。おじゃまします」
「あまり人の出入りはないようですね。そこら中、埃だらけです」
探索の途中、レポーター役のひとりが、落ちていた古いカルテと見られる紙を拾った。
紙は黄ばみ、すっかり劣化して、ぼろぼろになっていた。
「もう帰ろうか」「そうだな」
廃墟の様相を呈している病院は撮れたものの、期待していた心霊現象はなかった。
拍子抜けした三人は、戦利品代わりにカルテを持って病院を出た。
「どうも、カルテありがとうございました。おじゃましました」
帰った三人は、さっそく部屋でさきほど録ったビデオを上映することにした。
病院の前で、マイクを構えているひとりが映し出された。
くだらない冗談を言い合いながら、病院の玄関をくぐる。
「どうも、○○です。おじゃまします」
「いらっしゃい」
見ていた三人は、凍りついた。女性の声が入り込んでいた。
「あまり人の出入りはないようですね。そこら中、埃だらけです」
「散らかっていて、申し訳ありません」
「もう帰ろうか」「そうだな」
「何のお構いもせず、すいません」
「どうも、カルテありがとうございました。おじゃましました」
「ちょっと待て」
低く、どすの聞いた声が、部屋に響きわたった。
三人は互いに顔を見合わせ、がたがたと震えた。
再生を終えたテープが、自動的に巻き戻される。傍らの電話が、突然鳴った。
三人の内の一人が、恐る恐る、受話器をとった。
「こんにちは。○○病院です。大事なカルテですので、こちらまでお戻しください。それとも、おうかがいした方がよろしいでしょうか」
これが都市伝説、「ちょっと待て」です。
いくつかバリエーションがあるようで、この病院のタイプのものは比較的新しいもののようです。
古いバージョンだと、廃病院ではなく、単なる廃墟のものが主流です。
私個人の思い出ですが、小学校の修学旅行のとき、友達にこの話をされたのを覚えています。
この都市伝説も、実際に話しながらの方が怖く感じる都市伝説のひとつですね。
特に、最後のちょっとまてのところで声を低くし、それまでは優しそうに丁寧に話すと、より効果的でしょう。
2012年03月29日
都市伝説:さめない酔い
ある男性会社員が、帰り際、仕事仲間との飲み会に参加した。
その日はかねてからの大仕事だった商談がようやくまとまったため、彼も仕事中もみな上機嫌に祝杯を掲げた。
しこたま飲んでしまった彼だが、家はそれほど遠くなく、大丈夫だろう、と運転して帰ることにした。
深夜の時間帯のため、人影はなく、通いなれた道ということもあり、彼はうとうとしてしまう。
家までもう少しというところで、一瞬だけ眠ってしまった。
一瞬、ひやりとしたが。すぐにハンドルを取って家に帰ることができた。
次の日、彼は頭を痛ませながら目を覚ました。
そして、仕事に出ようとガレージに向かった彼は信じられないものを見てしまう。
それは、自分の屋根の上で死んでいる女の子だった。
彼は自分の長い叫び声で目が覚め、飛び起きた。
気づけば、ハンドルを握りしめている。
「夢だったのか……」冷や汗を拭った彼は、嫌な予感がして車を止めた。
おそるおそる車の見上げると、自分の屋根の上には死んでいる女の子がいた。
彼は叫び、その声に目が覚めて--。
これが都市伝説、さめない酔いです。
元々は単に女の子の死体を見つけて終わるパターンだったのでしょうが、今回紹介したのは、悪夢と酔いとをさめないものとした派生パターンです。
話自体は、自動車免許の更新の際にでもありそうな話ですが、屋根の上にずっといるというのは不気味です。
また、ずっと引きずっていた、というパターンもありましたが、実際に事件が起こったためか、あまり聞かれなくなりました。
大抵、その場合は上半身だけになっているパターンが多いようです。
2012年03月29日
都市伝説:ストーカー
ある女性がストーカーの被害に悩まされていた。
家の前に変な男が立ち、ぼうと見上げていた、などという話を近所の人から聞くと、身が凍る思いがした。
気味は悪かったが、特に実害はなかったので、そのまま放置していた。
すると、どこからかぎつけたのか、無言電話がかかるようになった。
「もしもし?」
「…………」
「もしもし? どなたですか?」
「…………」
くぐもったような息の音だけがしばらく続き、ぷつんと切れる。
こんな無言電話が、一日に何回も、朝となく夜となく続くようになった。
我慢の限界に達した彼女は、いつものようにかかってきた無言電話に、
「いい加減にしなさい! この変態ストーカー! 卑劣で最っ低ないくじなし!」
すると、今までくぐもった息の音だけだった受話器から、
「ころしてやる」
という言葉だけが返され、電話は切れた。
彼女は、その男の反応に身の危険覚えたため、警察に相談することにした。
彼女の事情を聞いてくれたのは、運良く人の好い女性警官だったため、親身になって相談になってくれた。
そして、今度電話がかかってきたときは、逆探知を行って、相手の居場所がわかってから、彼女の携帯電話にかけるので、なるべくストーカーとの電話を切らないようにといわれた。
そして、その夜、電話がかかってきた。
しかし、相手の様子がいつもとは異なっていた。
「もしもし?」
「ふふふ……」
「もしもし?」
「ふふ……くくくくく……」
ストーカーの男は無言ではなかった。
ストーカーの男は、低くくぐもった声で、電話口で静かに笑っているのだった。
不気味な笑いに恐ろしくなった彼女は電話を切ろうとしたが、逆探知のことを思い出し、生理的な嫌悪感に耐えながら、ひたすら男の笑い声を聞いていた。
すると、彼女の携帯電話が鳴った。
警察からだ。
「逆探知の結果が出ました。今すぐ、今すぐ外に出てください! 犯人はあなたの家にいるんですよ!」
彼女は、反射的に受話器をたたきつけると、その場に立ち竦んだ。
男の笑い声は、まだ、消えていなかった……。
これが都市伝説、「ストーカー」です。
近いものでは「電気をつけなくてよかったな」や、「ベットの下の斧男」などがあります。
例が少ないということもあるのでしょうが、意外と女性版のストーカーの都市伝説というのは存在しないんですよね。
それこそカシマさんというストーカーが登場しても、おかしくない世の中になってきているような気もします。
その場合、落ちも少し女性らしい怖さが付加されたものになるのかもしれません。
2012年02月27日
都市伝説:ある光景
その夫婦の仲は、非常に悪かった。
互いが互いの欠点ばかりをあげつらい、当然ながら冷め切った間柄で、毎日けんかばかりしていた。
それでも、どうにか離婚を踏みとどまっていたのは、小さい一人息子がいたからだった。
しかし、そんな日にも、とうとう終わりが訪れる。
我慢の限界に達していた夫は、些細な口げんかをきっかけに、妻を殺してしまう。
遺体を処理して、近所には、妻は実家にかえってしまったため、連絡をとれなくなりました、と嘘をついた。
そうして、何日かが経った。
ようやく、夫は人心地が付くと同時に、不思議に思うことがあった。
息子が、さみしいなどという泣き言をいわないのだ。
それどころか、嬉しそうにしているようにさえ見えた。
夫は、息子も実は妻のことが嫌いだったのだろうか、と思い、聞いてみることにした。
「なお、最近、お母さんいないけど、さみしくないか?」
「うんさみしくないよ」
「お母さんのこと、きらいだったのか?」
「ううん。でも、お父さんとお母さんは、仲良くなったんだね」
「え?」
「だってママ、パパの背中にずっと抱きついてるんだもん」
これが都市伝説、ある光景です。
元々は、単に妻が夫に張り付いていることが息子には見えた、という都市伝説ですが、これはその派生バージョンです。
喧嘩の多い家庭で傷つくのは、やはり子どもです。
その子どもが、父母が仲良くなっているように見えた、というのがなんとも哀れみを誘い、このパターンの都市伝説も広がったのでしょう。
喧嘩のみならず虐待の多いこの世の中においては、こうした都市伝説の変化というのは、当然なのかもしれません。
互いが互いの欠点ばかりをあげつらい、当然ながら冷め切った間柄で、毎日けんかばかりしていた。
それでも、どうにか離婚を踏みとどまっていたのは、小さい一人息子がいたからだった。
しかし、そんな日にも、とうとう終わりが訪れる。
我慢の限界に達していた夫は、些細な口げんかをきっかけに、妻を殺してしまう。
遺体を処理して、近所には、妻は実家にかえってしまったため、連絡をとれなくなりました、と嘘をついた。
そうして、何日かが経った。
ようやく、夫は人心地が付くと同時に、不思議に思うことがあった。
息子が、さみしいなどという泣き言をいわないのだ。
それどころか、嬉しそうにしているようにさえ見えた。
夫は、息子も実は妻のことが嫌いだったのだろうか、と思い、聞いてみることにした。
「なお、最近、お母さんいないけど、さみしくないか?」
「うんさみしくないよ」
「お母さんのこと、きらいだったのか?」
「ううん。でも、お父さんとお母さんは、仲良くなったんだね」
「え?」
「だってママ、パパの背中にずっと抱きついてるんだもん」
これが都市伝説、ある光景です。
元々は、単に妻が夫に張り付いていることが息子には見えた、という都市伝説ですが、これはその派生バージョンです。
喧嘩の多い家庭で傷つくのは、やはり子どもです。
その子どもが、父母が仲良くなっているように見えた、というのがなんとも哀れみを誘い、このパターンの都市伝説も広がったのでしょう。
喧嘩のみならず虐待の多いこの世の中においては、こうした都市伝説の変化というのは、当然なのかもしれません。
2012年02月21日
都市伝説:救われない話
注:このお話はあまりにも救いようがないので、気分を害す恐れがあります。
理不尽すぎる話が苦手な方は、読まないでください。
(上の注意書きは私の判断であって、都市伝説のフリではありません。ではどうぞ)
ある幸せだった家庭で起こった、悲劇としかいいようのない、悲惨な話だ。
この日、母親は洗濯をして、旦那や子どもたちの汚れた服をせっせと干していた。
離れた部屋では小さい女の子の姉と生まれたばかりの弟が、じゃれあって遊んでいた
女の子はふと、純粋な疑問を抱いた。
男の子の股についているものが、なぜ自分にはついていないのだろう。
そんな考えが浮かび、気になって仕方がなくなった。
弟は、そんな女の子の意図などお構いなしに、女の子が動かすおもちゃに笑っている。
気になって気になって、我慢できなくなった女の子は、使い方を教えてもらったばかりのはさみで、弟のおちんちんを一息に切ってしまった。
突然、火のついたような、激しい泣き声に母親は気づいた。
慌てて部屋に駆け込み、子どもたちの様子を見て仰天した。
女の子からもぎとるようにはさみを取り上げると、救急車を呼ぶよりも、自分で運んだ方が早いと判断し、大慌てで男の子を抱きかかえて家を出た。
車に乗ると、ガレージに先頭から入っていた自動車をバックで急発進させた。
そのとき、泣きながら家の外まで付いて来ようとした女の子をひいてしまった。
これが都市伝説、救われない話です。
実はこの都市伝説の原型と思われる話は昔からある話のようで、これも負けず劣らず悲惨な話です。
この話は、救いようがないですが、救いようがないからこそ、都市伝説として語り継がれているのでしょう。
一家が突然の最悪に遭う話は他にもありますが、救われなさではかなり上位に入る話だと思います。
理不尽すぎる話が苦手な方は、読まないでください。
(上の注意書きは私の判断であって、都市伝説のフリではありません。ではどうぞ)
ある幸せだった家庭で起こった、悲劇としかいいようのない、悲惨な話だ。
この日、母親は洗濯をして、旦那や子どもたちの汚れた服をせっせと干していた。
離れた部屋では小さい女の子の姉と生まれたばかりの弟が、じゃれあって遊んでいた
女の子はふと、純粋な疑問を抱いた。
男の子の股についているものが、なぜ自分にはついていないのだろう。
そんな考えが浮かび、気になって仕方がなくなった。
弟は、そんな女の子の意図などお構いなしに、女の子が動かすおもちゃに笑っている。
気になって気になって、我慢できなくなった女の子は、使い方を教えてもらったばかりのはさみで、弟のおちんちんを一息に切ってしまった。
突然、火のついたような、激しい泣き声に母親は気づいた。
慌てて部屋に駆け込み、子どもたちの様子を見て仰天した。
女の子からもぎとるようにはさみを取り上げると、救急車を呼ぶよりも、自分で運んだ方が早いと判断し、大慌てで男の子を抱きかかえて家を出た。
車に乗ると、ガレージに先頭から入っていた自動車をバックで急発進させた。
そのとき、泣きながら家の外まで付いて来ようとした女の子をひいてしまった。
これが都市伝説、救われない話です。
実はこの都市伝説の原型と思われる話は昔からある話のようで、これも負けず劣らず悲惨な話です。
この話は、救いようがないですが、救いようがないからこそ、都市伝説として語り継がれているのでしょう。
一家が突然の最悪に遭う話は他にもありますが、救われなさではかなり上位に入る話だと思います。